コラム:外国人の在留資格・在留申請にまつわる話

[ブログ]外国人厩務員の在留資格とは

2024-10-19

2024/10/18 読売新聞の記事によれば、"地方競馬で競走馬の世話をする外国人の厩務員が急増している。"とのこと。記事のタイトルを見て在留資格は何だろうと思い、中身を読んでみると、"外国人の厩務員は、在留資格「技能」で働いている。出入国在留管理庁の統計では、技能で働く外国人は、2023年末で4万2499人に上り、この10年間で約9000人増えた。技能は、特殊な分野で熟練した技能が必要な仕事に従事する在留資格で、厩務員は、「動物の調教」にあたり、10年以上の実務経験が取得要件となっている。"とのことでした。




在留資格「技能」とは


在留資格「技能」とは、日本の会社等との契約に基づいて行う産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する活動とされています。代表的な例としては、外国料理の調理師ですが、それを含め上陸許可基準は下記が限定されており、これら以外の職種で行う活動を目的として「技能」を取得することはできません。





厩務員は、このうち「動物の調教」にあたるということですが、なるほど、と思う反面、疑問もあります。



在留資格該当性からの疑問


前述のとおり、在留資格「技能」とは、産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する活動とされています。


産業上の特殊な分野とは


「産業上の特殊な分野」とは、東京地裁H23.2.18判決によれば、外国に特有の産業分野、外国の技能レベルが我が国よりも高い産業分野、及び我が国において従事する熟練技能労働者が少数しか存在しない産業分野等が考えられるとされています。


熟練した技能を要する業務に従事する活動とは


また、上記判決によれば、「熟練した技能を要する業務に従事する活動」とは、長年の修練と実務経験により身に付けた熟達した技量を必要とする業務に従事する活動をいうとされています。


想定されている「動物の調教師」


そもそも、「技能」が列挙した動物の調教師は、動物園やサーカスにおける調教師を指すものでした。動物園やサーカスという業態は外国由来のものですし、調教対象の動物は外国の動物が多く、"産業上の特殊な分野"と解することに異論は無いでしょうし、"調教"はまさに長年の修練により裏打ちされた熟達した技量を必要とする業務といえます。



厩務員と調教師の違いについて


では、冒頭記事における厩務員は調教師と、果たして同義でしょうか。
「調教」とは、改訂新版世界大百科事典によれば、"動物に情緒的な働きかけをし,特定の人の命令にしたがい,一定の行為を行わせるようにする訓練の過程をいう。"とされています。また、「厩務員」とは、JRAの競馬用語辞典によれば、"トレーニング・センター場長の承認の上で、調教師との間に雇用契約を結び、厩舎で競走馬の世話をする人をいう。"とのことです。



まとめ


入管庁の審査要領(うち公開されている内容)には、「動物の調教師」について具体的な審査基準が見当たりませんでした。記事からは明らかになっていない活動内容が厩務員としての活動に、本来の"技能"としての性格が強い活動が含まれている可能性もあります。ただ、上述の定義のみからすれば、「厩務員」と「調教師」は同義では無さそうであり、「厩務員」に動物の調教師として、「技能」の在留資格該当性を見出すことに無理があるように見えるのです。

活動内容の実態としては単純労働に近く、在留資格としては「特定技能」への親和性が高いのではないでしょうか。ただ、特定産業分野に追加するほどの雇用市場ではないし、特定産業分野の農業(うち畜産)に職種としては似ているが、食用ではないので畜産にはあたらないから、特定技能の対象とすることはそもそも無理ということなのでしょう。